猫好きドラゴンの話。

そのドラゴンは実に凶暴で、気まぐれで、自分の気に入らないものは何でも壊してしまいました。
わたしたちは夜になるとドラゴンの監視に怯え、彼が眠っている間だけ行動することが出来ました。彼は頻繁に目を覚ましてしまうので、わたしたちの行動にも当然制限が掛かります。
彼はわたしたちが動くと、すこぶる不機嫌になります。だから障子を閉めているのですが、彼はとても器用にその障子も開けてしまうのでした。彼が目を開けている間、わたしたちは動かず、彼の目を見ず、じっとしていなければなりませんでした。
そうしないと、彼はどんどん怒り、仕舞いには体色を真っ赤にして火球を吐くのです。火球一つで家は全部壊れてしまう有様でしたから、わたしたちは常に注意を払い、家を壊されないようにするのが精一杯でした。
また、ドラゴンは人語も理解するので、決して彼についての不用意な言葉が発されないよう気をつけてもいました。
あるときのこと、ドラゴンの監視の届かない家の東から、飼い猫のクロがやってきました。
わたしたちは怯えました。クロは猫です。ドラゴンに対して、どんな無作法を働くか判りません。けれどその夜もドラゴンが見張っていたので、わたしたちは動かず、何も起こらないように祈っていました。
そのときでした。
クロを見たドラゴンは目を細め、興味深そうにクロをしげしげと眺めると、急に人間の姿をとりました。
彼はわたしに訊きました。
「どうかな?」
もちろんその姿の是非について言っているのでした。わたしは答えます。
「すごく素敵です」
実際、彼は素敵でした。艶やかな金髪、まつげは長く、とてもハンサムで、薄茶色の旅装束でした。こんな彼にもしも愛を告白されたら、ときめかない女性がいるでしょうか。それほど彼の容姿は整っていました。彼は一度装束の色合いを変えて、もう一度「どうかな」と訊きました。
人間の姿のとき彼が火球を吐かないことをわたしは知っていたので、遠慮なく「さっきのほうがいいです」と答えました。
すると彼はまた服の色を最初に戻して、クロに向かって「おいで」と言いました。
クロは彼の言葉の意味を知ってか知らずか、人間姿のドラゴンに歩み寄りました。そしてそのまま彼についていき、外に出ました。わたしたちは目で追います。
柱の向こう側を通ったクロは、彼と同じように人間の姿になっていました。クロが人間になるのはよくあることです。その姿で悪戯をすることには少々困っていましたが。
黒髪に黒い衣装の少女姿のクロは、自分のテリトリー、つまり我が家の庭を、ドラゴンに案内していました。ドラゴンは満足そうについていきます。
網戸の前で、クロがはたと足を止めました。
羽虫です。網戸に羽虫が付いていたのです。クロが繰り出しました。そう、猫パンチをです。わたしは笑ってしまいました。ドラゴンも笑っていました。
羽虫は網戸のこちら側にいました。クロが羽虫を捕まえられずに拗ねそうになっていたので、わたしは虫が苦手でしたが、羽虫を捕まえて外に出してあげることにしました。


ってとこで目が覚めた。
いい夢だった……。
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